チェンマイの風を全身で感じながら、気の向くままに走るバイク旅。
想像するだけで、わくわくしますよね。
「そういえば、2025年から日本で法律が新しくなって、普通免許で125ccのバイクに乗れるようになるって聞いたな。」
「それなら、国際免許を取ればチェンマイでもスクーターを運転できるんじゃん?!」
そんなふうに考えている方も、いらっしゃるかもしれません。
でも、その計画、少しだけ待ってください。
その認識には、思わぬ「落とし穴」が隠れているんです。
この記事では、タイでバイク旅行を考えているあなたが、知らずに法律違反をしてしまったり、トラブルに巻き込まれたりしないために、大切な情報をお届けします。
この記事でわかること
大切なのは、正しい知識を持って、しっかり準備すること。
あなたのチェンマイ旅行が、安全で最高の思い出になるよう、一緒に確認していきましょう。
【結論】日本の普通自動車免許ではタイでバイクは運転できません
いきなり結論からお伝えすると、とても残念ですが、日本の普通自動車免許(普通免許)を元にした国際運転免許証で、タイでバイクを運転することはできません。
これは、2025年に日本の法律が変わった後でも同じです。
「え、どうして?」と思いますよね。
その理由は、大きく分けて3つあります。
- 日本の免許制度の「特殊すぎるルール」
- 国際運転免許証が持つ「限界」
- タイと日本の「法律とバイク事情の違い」
これから、この3つのポイントを一つずつ、ゆっくり解き明かしていきますね。

人間の世界は猫の世界と違って、法律が国で違ってややこしい。
日本の新ルール「新基準原付」ってなあに?
まず、混乱のもとになっている日本の新しい法律について、正しく理解しておきましょう。
2025年4月1日から、日本で「新基準原付」という制度がスタートしました。
これは、一言でいうと「排気量は125ccだけど、パワーを抑えることで、法律上は50ccの原付バイクと同じ扱いにする」というものです。
なぜこんなルールができたかというと、厳しくなる一方の排ガス規制が背景にあります。
従来の50ccエンジンでは、新しい規制をクリアするのが技術的にもコスト的にも非常に難しくなってしまいました。
そこで、「じゃあ、125ccエンジンのパワーをわざと落として、今の50ccバイクと同じくらいの性能にして、これを新しい時代の『原付』にしよう」という、いわば“特例措置”として生まれたのがこの制度なのです。
この「新基準原付」に分類されるための条件は、以下の2つです。
排気量ばかりを耳にするので最高出力なんて考えたことがなかった!ということも多いのでは?
つまり、普通免許で乗れるようになったのは「最高出力が4.0kW以下に制限された、特殊な125ccバイク」のことであって、決して「すべての125ccバイク」に乗れるようになったわけではないのです。

えーっ、そうなんだ!
「125cc解禁!」って聞いて、タイの可愛いスクーターに乗って、おしゃれなカフェを巡るのを想像してました…。
でも、パワーとか細かいルールがあるんですね。あぶないあぶない…
そして、ここでの最重要ポイントは、この条件を満たしたバイクは、あくまで日本の法律の中で「第一種原動機付自転車(原付一種)」として扱われる、という点です。
国際運転免許証の「見えない壁」
「でも、国際運転免許証さえあれば、海外でも運転できるんじゃないの?」
そう思いますよね。
しかし、ここにもう一つの大きな壁があります。
そもそも国際運転免許証(IDP: International Driving Permit)とは、それ自体が独立した免許証ではありません。
その正体は、「あなたが持っている日本の免許証の内容を、外国の警察官にも分かるように翻訳した、公式な証明書」ということです。
IDPの運用には「同等性の原則」という厳格なルールがあります。
これは、「海外で運転できるのは、自国の免許で許可されている車両カテゴリと、同じかそれ以下のクラスの車両だけですよ」という大原則です。
さて、日本の免許制度を国際的な基準に当てはめてみましょう。
- 自動車 → 国際カテゴリ「B」
- 自動二輪車(バイク) → 国際カテゴリ「A」
日本の普通免許を持っている人が国際免許を申請すると、そのIDPには「B」の欄にだけスタンプが押されます。
日本の国内法では普通免許に「原付一種」の資格がオマケで付いてきますが、この原付一種、つまり125cc以下、最高出力4.0kW以下の乗り物は「モーターサイクル (motorcycle)」ではなく、「モペッド(moped)」。
そしてこの「モペッド(moped)」=「原付」は、国際的な枠組みでは「自動車」の仲間とは見なされず、「自動二輪車」である「A」のカテゴリとも明確に区別されているのです。
つまり、たとえ日本で「新基準原付」に乗れるとしても「モーターサイクル (motorcycle)」ではないため、それを根拠に発行された国際免許証では、国際的な「自動二輪車(カテゴリA)」の運転資格を証明することはできない、ということになるのです。
ここが違う!タイのルールとレンタルバイク事情
「国際的には」と書いてきましたが、それにはタイ王国も含まれます。
タイの法律には、日本のような排気量やパワーで細かく分けた「原付」というカテゴリーが存在しません。
観光客がチェンマイでレンタルするようなスクーターは、排気量が110ccでも125ccでも、法律上はすべてひとくくりに「モーターサイクル (motorcycle)」として扱われます。
そして、タイで外国人が「モーターサイクル」を合法的に運転するためには、必ず以下の2点をセットで携帯している必要があります。
- カテゴリ「A」(自動二輪車)にスタンプが押された、有効な国際運転免許証
- その国際免許の元になった、日本の自動二輪免許証の原本
もし、カテゴリ「B」にしかスタンプがない国際免許でバイクを運転しているところを警察官に見つかると、それは「無免許運転」と見なされます。
無免許運転は、交通違反となり罰金を払わされるだけではありません。
万が一事故を起こしてしまった場合に、加入している海外旅行保険やバイクの保険が一切適用されなくなるという、非常に深刻な事態を招きます。
「でも、レンタル屋さんはパスポートを見せたら簡単に貸してくれたよ?」
という話を聞くかもしれません。
確かに、観光地のレンタル店では、免許の確認をせずに貸し出すところが残念ながら存在します。というか、ほとんどがそんな感じです….。
しかし、お店があなたにバイクを貸すということが、あなたの運転が合法であることの証明にはならないのです。

ここチェンマイでは、小さなスクーターも大きなバイクも、みんな同じ『モーターサイクル』の仲間。昼寝に最適ふかふかシート。
【さらなる追い打ちの事実】そもそも「4.0kW以下のバイク」はタイにない?
ここまで法律の話をしてきましたが、実はもう一つ、物理的な問題があります。
仮に、100歩、いえ10000000歩譲って「日本の普通免許ベースの国際免許で、4.0kW以下のバイクならタイでも運転OK」という奇跡的な解釈がされたとしましょう。
しかし、そもそもそんなバイクは、タイには事実上存在しないのです。
タイで最も人気があり、どこでもレンタルできるバイクは、HondaのClickやScoopy、YamahaのGrand Filanoといったモデルです。
これらのバイクのスペックを見てみましょう。
表:タイの主要レンタルバイクと日本の「新基準原付」のパワー比較
モデル名 | 総排気量 (cc) | 最高出力 (kW) | 日本の上限 (4.0kW) との比較 |
---|---|---|---|
日本の「新基準原付」上限 | ≤ 125 | ≤ 4.0 | – |
Honda Click 125i | 125 | 8.2 | 2倍以上! |
Honda PCX 125 | 125 | 9.2 | 2倍以上! |
Yamaha Grand Filano Hybrid | 125 | 約 6.1 | 約1.5倍! |
Honda Scoopy (110ccモデル) | 約 110 | 約 6.6 | 60%以上超過! |
*横方向にスクロールできます。

完全に「別に山とか行かないし排気量の小さなScoopyの110ccに乗ればワンチャン…」なんて思ってました。最高出力が超過しているんですね……ガックリ。
この表が示す通り、タイで一般的にレンタルされているバイクは、日本の「新基準原付」が定める4.0kWという上限を、どれも大幅に上回っています。
つまり、法律的にOKだったとしても、実際に乗れるバイクが現地に存在しない、というのが現実なのです。
じゃあ、どうすれば?チェンマイでバイク旅を楽しむための【正規ルート】
「じゃあ、もうチェンマイでバイクに乗る夢は諦めるしかないの?」
いいえ、そんなことはありません!
もちろん、きちんとルールに則った方法があります。
一番のおすすめ!日本で「AT小型限定普通二輪免許」を取ろう
タイ旅行を計画しているなら、一番確実で、最もおすすめなのが、日本出発前に「AT小型限定普通二輪免許」を取得することです。
この免許は、125cc以下のオートマチック(AT)のバイクに乗れる資格で、チェンマイでレンタルできるスクーターのほとんどをカバーできます。
期間も費用も手頃
普通免許を持っていれば、教習所にもよりますが、最短2日~、費用も10万円前後から取得できることが多いです。
これで「A」スタンプGET
この免許を取得した後に国際運転免許証を申請すれば、あなたのIDPには念願のカテゴリ「A」(自動二輪車)のスタンプが押されます。
この「A」スタンプのある国際免許証と、日本の二輪免許証の原本を携帯すれば、あなたはタイで堂々と、合法的にバイクを運転することができます。
長期滞在者向けの選択肢
もし、留学や仕事などでチェンマイに長く滞在する予定なら、タイ国内で免許を取得・切り替えするという方法もあります。
日本の二輪免許から切り替え
日本で取得した自動二輪免許を、チェンマイの陸運局でタイの免許証に切り替える方法です。
在留証明などの書類が必要になります。
タイで新規取得
タイの教習所に通い、試験を受けて新しく免許を取得する方法です。
ところが、観光客でも書類を揃えれば取れるだとか取れないだとか、
その時々でルールも変わってしまうようです。
日本の10倍?!交通事故死亡者数の多いタイ
実はタイはとても交通死亡事故の多い国です。
2015年の世界保健機構(WHO)の調査によると、人口あたりの交通事故死亡者数世界2位であると話題に。
2024年の同じく世界保健機構(WHO)の調査によると、タイは人口10万人あたりの交通事故死者数がWHO推計値25.4人で世界で16位でした。この時の調査で日本の数値は日本は2.7人だったので、ほぼ10倍と言って良い数です。
そして、そのタイの中でも、チェンマイはとても交通事故の多いところ。
特に年末年始に多いと言われ、バンコクの次に交通事故が多いという報道もあります。
……実際、包帯をしたりギブスをした観光客もよく見かけるのです。
しばらく滞在していれば、1度や2度はひっくり返ったバイクを見ることでしょう。
羽目を外してしまった観光客が事故を起こすことも、交通事故数の数を押し上げてしまっているのかもしれませんね…。
安全が最優先。正しい準備で、最高の旅を
最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 2025年の法改正後も、日本の普通免許だけではタイでバイクは運転できない。
- 理由は、①日本の「新基準原付」は特殊なルールであること、②普通免許ベースの国際免許ではバイクの運転資格を証明できないこと、③タイではレンタルバイクが全て「モーターサイクル」扱いであること、の3つ。
- タイで合法的にバイクに乗るには、日本で「AT小型限定普通二輪免許」以上を取得し、「A」スタンプのある国際免許証を持ってくるのが最も確実な方法。
バイクに乗れる=乗る場合でもルールを守って、安全運転で!
笑顔で帰国できる、安全な旅を楽しみましょう!